2010年10月30日土曜日

課題図書について(1)

第1回シミローグ公開読書会+トークイベントでは、町田康さん、朝吹真理子さんにひとつずつ作品を選んでいただきました。
このふたつの作品について、トークイベントでは語り、また第2部のディスカッションでは、参加者のみなさんといっしょに語りたいと思います。
古今東西の名作のなかから、こういう機会でないとなかなか読まない、けれど刺激的な作品を挙げていただきました。たのしんでいただけること請け合いです!


ここでは、課題図書を読む参考になる情報をお届けします。

公開読書会に先駆けて、町田さんと朝吹さんに、選書の理由やどのように読んだかを語っていただきました。その模様は、早稲田文学編集室が発行するフリーペーパー「WB」vol.21に掲載、11月中旬に配布予定です。


◆朝吹さんの選んだ本とその理由
朝吹さんが選んだのは、『宇治拾遺物語』。13世紀前半に成立したといわれるこの説話集を、古文の授業で読んだひとも多いはず。そのため、小難しい印象もありますが、読んでみると、とってもおもしろいんです!
こんかい読むことになるのは、目の前でおならをされて出家を決意する男の話や、父親の生まれ代わりと言われるナマズを食べちゃう息子の話など、「なんでそんなことするの?」とツッコミたくなる、笑いと不気味さのつまった話ばかりです。現代語訳もあるので、古文の苦手な人もたのしめます。

朝吹さん曰く、町田さんの小説にも共通する、因果律の抜け落ちたさまがおもしろい説話集。人間が生きることの無意味さや滑稽さを、フェティッシュな感情や情緒にまみれずに描き、まるっと裸のまんまの人間が出てきますとのこと。これには町田さんも同意され、たのしんでいました。


◆『宇治拾遺物語』を読むには
『宇治拾遺物語』原文は、いろいろなかたちで読むことができます。
たとえば、こちらからはPDFでご覧いただけます。

書籍のかたちでは、角川ソフィア文庫版が手頃な値段です(注釈のみで、現代語訳はないようです)。
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現代語訳を希望する人には、『新編日本古典文学全集(50) 宇治拾遺物語』(小学館)があります。全197話を収録、原文と現代語訳が併載され、充実した解説もついています。ちょっと高いのが難ですが、この機会に「『宇治拾遺』を読破しよう」という方にはオススメです。
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ちなみに、小学館の「日本の古典をよむ」シリーズの『宇治拾遺物語』にも現代語訳がついていますが、こんかい扱う話がすべて収められているわけではないのでご注意ください。

先の「WB」対談で、町田さんと朝吹さんに好評だったのが、野坂昭如訳の『今昔物語・宇治拾遺物語 ビジュアル版日本の古典に親しむ』です。野坂さんは、町田さんも尊敬する小説家。この翻訳では、ときおり野坂節を見せながら、『宇治拾遺物語』の持つおもしろさと不気味さを引き立てています。
この本には野坂さんの訳のみで、またすべての話を収録しているわけではありませんが、読み物としては抜群におもしろく、パラパラ読むには最適です。
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こんかい扱う以下の9話は、長くて4ページほどの掌編ばかり。近代小説に慣れた感覚からすると、呆気にとられるほどの短さです。その分、ぎゅぎゅっと凝縮された魅力を楽しんでください。

巻一の四 伴大納言の事(1p)
巻三の二 藤大納言忠家物いふ女放屁の事(1p)
巻三の一五 長門全司の女葬送の時本所に帰る事(3p)
巻三の一八 平貞文、本院侍従の事(4p)
巻七の三 三条中納言水飯の事(3p)
巻九の八 博打の子、婿入の事(3p)
巻十の一 伴大納言応天門を焼く事(4p)
巻一三の二 元輔落馬の事(3p)
巻一三の八 出雲の別当父の鯰になりたるを知りながら殺して食ふ事(3p)


◆町田さんの選んだ本とその理由
一方、町田さんが選んだのは、安部公房の短篇「無関係な死」「なわ」。
意外なセレクトに感じますが、町田さんは、中高生のころにめちゃくちゃ好きで、何度もくり返し読んだそうです。

「無関係な死」のあらすじを簡単に説明すると、ある日、Aなにがしがアパートの自室に戻ると、死体が横たわっていた。動転したAは、通報することもできずに、死体と対峙する……といった不気味な一篇。町田さん曰く、「人間の有限の命をじめっとしたところで考えているところがある」作品です。

最近は、安部公房と口する人を見かけない気がしますが、それがかえって新鮮かもしれないというのも選書の理由だとか。先の対談でも評価が分かれ、議論が大いに盛り上がりました。

ともに『無関係な死・時の崖』(新潮文庫)に収録され、今も手に入れることができます。
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読書会まで、あまり日がありませんが、ふたつの作品についていっしょに語りましょう!

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